センター長メッセージ

糖尿病臨床研究センターの理念とセンター長就任のご挨拶

センター長メッセージ
2017年09月01日

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皆さん、はじめまして!

8月から南昌江内科クリニックの3人目の医師として赴任いたしました前田泰孝と申します。
長らく診療の傍らで医学研究と教育活動に携わって参りましたが、ご縁があって当クリニックに骨を埋めることにいたしました。
実は私も南先生と同じように1型糖尿病でインスリン療法を行っています。医学生になって間もない21歳の成人発症でした。それまで希望していた外科系医師への道は、そのときなんとなく絶たれた気がしました。進路に悩んでいた私は主治医の岡田朗先生から九州大学の井口登與志先生の存在を紹介され、糖尿病合併症研究の面白さに惹かれました。旧第三内科の先輩方はみな指導熱心でしたし、仕事のできる後輩たちにも恵まれました。そして、糖尿病専門医になり、同じような1型糖尿病の医師の方々と出会ったことで、自分の体験を患者さんへ語る機会も増えてきました。

私は今もしも、「糖尿病でない人生を選んでも良いよ」と言われたら、すこしためらいます。いろいろなハードルを乗り越えてきたことで得られたものがけして少なくないからです。病気はまちがいなくハードルであり、必要のないものです。しかし、人生を幸せに生きることはどういうことかを教えてくれる先生でもありました。そして、私を助けてくださる人々と科学の進歩、それらをささえている豊かな自然への感謝の念を育んでくれました。

糖尿病とともに生きるためには様々なハードルがあり、それを乗り越えるための支援体制が必要です。子どもの時に発症した場合には、学業や部活動、そして家族・友人関係などに支障を来さないように糖尿病サマーキャンプという強力な支援体制があります。一方で、私のような20~30代発症の糖尿病患者さんは、就職や結婚などの人生の大きな転機を迎える大切な時期にあたり、十分な医療を受ける余裕がないこともしばしばです。病気に対する偏見や心ない差別も依然として根深いものがあります。現在の若年発症者をとりまく社会的環境を鑑みると、これらのハードルに打ち勝っていくためにはあまりに患者さん本人の努力に依存しすぎているのではないかと危惧しています。また、近年は糖尿病治療の進歩により生命予後は飛躍的に改善したものの、患者さんの高齢化が問題となっています。罹病期間が長くなると、どうしても血管合併症の頻度が高くなります。さらに、認知症や身体機能の低下にともない、インスリンなどの服薬がうまく行かないケースも増えています。家族の助けだけでなく、私たち医療者からのサポートと、それを支援する行政への働きかけが、いま必要です。

しかし、残念ながら医療資源は無限ではなく、地域や個人の経済力・社会的事情に左右されてしまいます。今は最適な医療技術を効率よく、患者さんの身近に届けることを求められています。まして、『どう考えても食べ過ぎちゃってるけど糖尿病とか肥満とか気にしないで良くなる薬作った!月にウン万円かかるけどね…』なんて、とても許されない時代なのです。また、生活習慣病と名付けられた糖尿病は、実際には1型や遺伝性のもの、妊娠や他の病気が原因となるものなど、きわめて多岐にわたる病態の複合体です。その「高血糖症」をコントロールして血管合併症を防ぎ、正常血糖の人たちと同等の健康な人生を歩んでいただくのが糖尿病治療の最終目的です。私たち医学研究者が長年にわたって培ってきた糖尿病合併症の予防と治療の技術がもうすぐ実を結ぼうとしています。多少血糖コントロールが悪くても、重篤な合併症に苦しむことのない未来が来るかもしれません。病気のためだけに生きているなんて本末転倒ですし、そのようなことは誰も望んでいません。

このたび、当クリニックに新しく「糖尿病臨床研究センター」という部門が設立されました。近年、マイコン時代~インターネット(IT化)時代~ソーシャルネットワーク時代とコンピュータ技術の進化が医療を大きく変えてきました。そして、これからの十数年間で、人工知能(AI)技術の進歩が医療者と患者さんの関係をさらに激変させることが予想されています。中には、AIが医療現場から“人間らしさ”を奪うのではないかと心配する人々もいます。確かにAIは人間の能力を模倣し凌駕するでしょう。特に、チェスや囲碁で人間のチャンピオンに勝利したように、「過去のデータから将来を予測する能力」に関してはすでにAIの方が圧倒的に優っています。しかし、いくら心配しても時計の針は巻き戻りません。それより、来るべき変化を積極的に受け入れて、いち早く正しい道へ導くことの方が重要ではないでしょうか。AIといえど、人間が正しい情報を与えなければ誤った解答を示すことは想像に難くありません。正しい医療の情報は、正しい訓練を受けた人々が時間をかけて紡ぐ医療現場にしかありません。そして、AIが得意な未来を予測する能力は、私たち医療者が「過不足のない適切な医療」を行うために欠かせないのも事実なのです。

このような変革の時代にあって、自分なりに診療と研究の関係を変える必要性に気づきました。大がかりな研究機関で行われる壮大なプロジェクトの重要性は語るに及ばずです。しかし、大切な協力プレーヤーである創薬・検査技術に携わる国内外の企業と話をするうちに、彼らが私たち臨床家に求めているのは、”リアルワールドのデータに裏付けられた新しいアイデア”だとわかりました。大学病院のような研究機関だけではなく、糖尿病専門クリニックから情報を発信することが、より適切な糖尿病の医療につながるという確信を得たのです。

最後に、糖尿病とともに生きる難しさと、生きることのかけがえのなさを伝えていくことが私の新しい使命です。私たちが提供する医療を受け入れてくださる皆さんとの信頼関係が何よりも重要だからです。「信頼とは成長の遅い木である。」の格言のとおり、時間がかかることもあるでしょう。どんな忍耐よりも楽しさや嬉しさというポジティブな感情がかえって近道のこともあります。また、上手に血糖管理を行うことで、自己実現という高次の悦びの境地も体験できます。どうか皆さんが豊かな糖尿病ライフを送れますように!

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