糖尿病臨床研究センターのウェブサイトを開設いたしました

センター長メッセージ
2018年12月10日

糖尿病臨床研究センター

糖尿病臨床研究センターのウェブサイトを新しく開設いたしました。

トップページの右側にある緑色のボタンから、あるいは下記URLからお入りいただけます。
http://www.minami-cl.jp/crcd/

糖尿病臨床研究センターを立ち上げてはや1年が過ぎました。
おかげさまで成果も順調に上がっております。
私どもの活動内容や業績についてご確認いただける場になればと思います。

年の瀬も押し迫ってまいりましたが、来年はセンターにとってさらに重要な年になります。
これからもご指導ご鞭撻のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

追記:
ちょうど本日、下記の研究助成金を受賞した旨のご連絡がありました。
CGMの意味付けを深めるとても重要な研究だと考えております。
皆様の暖かい応援を何とぞよろしくお願い申し上げます。

平成30年度 近藤記念医学財団学術奨励賞
研究課題「持続血糖モニターから無作為抽出した血管合併症リスクを示す血糖変動パターンの臨床的意義」

インスリン治療中の運動

センター長メッセージ
2018年08月01日

厳しい暑さが続いておりますが皆様いかがお過ごしでしょうか。
屋外で活動するにはつらい気候ですが、今回は運動のお話です。

近代的糖尿病ケアの父ジョスリン博士が“ジョスリンの3本柱”として重要視したとおり、食事療法とならんで運動療法は糖尿病治療に欠かせません。
しかし、実はインスリン治療中の方にとって運動が本当に血糖を改善するかどうかは未だに白黒がついていない状況です。インスリン治療の鬼門である低血糖が運動により増加して血糖コントロールが不安定になり、足を引っ張るからだと考えられています。
しかし、最近は持続グルコースモニター(CGM)が普及したため運動中いつでも自分の血糖トレンドをチェックすることができます。実際すでに多くの糖尿病患者さんがスポーツ中にCGMを使って低血糖予防とパフォーマンス維持に役立てていらっしゃいます。
そこで、南昌江内科クリニックで運動療法の担当をしている健康運動指導士の守田さんが、インスリン治療中の皆さんにCGMを活用して安全で効果的に運動を楽しんでいただくための科学的な根拠を創り出す臨床研究という形で挑戦しています。
※現在63名の方にご協力いただいております。ありがとうございます。
主な目標は、運動のアドバイスを行うことで運動への取り組みが増えることとインスリン治療の負担が減ることです。もちろん低血糖の有無を含めた血糖コントロールや体力の向上についても副次的評価項目として検討いたします。
私は統計学的解析の補助をしております。この臨床研究の結果、もし運動の好ましい効果が証明できれば患者さんにはもっと運動を身近に感じていただけますし、糖尿病療養指導の中での運動療法士さんの存在意義が高まります。追随する研究も生まれるかもしれません。

さて、糖尿病の方が運動する場合に留意すべき点は少なくありません。
まずは主治医に運動をしてよいか(可能ならどのくらいの強度までか)たずねましょう。
慢性腎不全の方や狭心症などの動脈硬化症を起こしたことがありまだ病状が安定していない方はもちろんのことですが、眼底出血しやすい状態の網膜症やたちくらみを起こすような自律神経障害も強度の高い運動は控えるべきです。

運動前後のインスリン量の調整と頻回の血糖測定、低血糖予防のための食事(補食)がもっとも重要です。
運動を始める前からインスリン量は適切に減量しておく必要があります。
運動強度や緊張具合いにもよりますが開始直後の血糖は1時間以内に100-200 mg/dLくらい急激に下降しすることがしばしばです。
そのため開始時に200-300 mg/dLになるように上げておくことが多いです。
また、運動中は1時間おきに血糖を確認しましょう。CGMやリブレなどは心強い味方です。血糖の上昇・下降の勢いから補食など取るべき対策をこころがけましょう。
さらに、運動日の夜は遅れてくる低血糖に注意してください。基礎インスリンの減量や就寝前の補食で予防しましょう。

他にも様々なトラブルシューティングがありますが、詳細につきましては以下の本に寄稿いたしましたのでご興味のある方はぜひ参考にされてください。

プラクティス・セレクション 今度こそできる! 糖尿病運動療法 サイエンス&プラクティス
プラクティス・セレクション 今度こそできる! 糖尿病運動療法 サイエンス&プラクティス

インスリン治療中でも万全の体制で臨めばきっと目標の運動が達成できるでしょう。
決して無理のないよう、そして日頃の練習がとても大事です。
運動でストレス発散、寝たきり防止にもなります。
大なり小なり、運動を日常に組み入れて豊かな糖尿病ライフを楽しんでください。

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最近やっと体調が戻ってきたので自転車を再開しています。
「Red Rider」は米国糖尿病学会(ADA)が行っている糖尿病啓発イベント「Tour de Cure」の参加者で糖尿病患者に与えられるサイクルジャージです。
留学中に参加したのでいただきました。デザインがかっこいいので気に入っています。
「I am not alone  (私は一人ではない)」「I Ride with Diabetes! (糖尿病とともに疾走る!)」などの心躍る言葉が記されています。
赤はADAのテーマカラーです。ちなみに国際糖尿病連合(IDF)は対照的に青です。

年度はじめの糖尿病自己管理

センター長メッセージ
2018年04月02日

4月に入り、福岡では桜吹雪が舞っています。
美しくも儚い和の美学が視界いっぱいに広がる様には高揚感を禁じえません。

さて、新年度がスタートし、新しい環境のもと期待と不安でいっぱいの方々も多いかと思います。
新しい目標や抱負を描いている方もいらっしゃるでしょう。
そんな緊張感でみなぎっている年度初めこそ、ぜひ健康を第一にお考え下さい。

「5月病」という言葉がありますね。
これは季節性の燃え尽き症候群です。

人間の体は緊張やストレスにさらされると様々なホルモンを分泌して対抗します。
急激なものに対してはカテコラミン(アドレナリンなど)が、慢性のものに対してはステロイド(糖質コルチコイド)が出て血圧を上げたり、炎症を抑えたりして危機を乗り越えようとするのです。

そうすると体が軽く、どんな困難にも打ち勝てるような気がいたします。
しかし、そのような無理は長くつづきません。
車や航空機のように過給状態を続けるとエンジンが焼き付いてしまいます。
人間のエンジンはなんでしょうか?
脳=こころですね。

5月病とはこころの疲れ、すなわち「うつ状態」と考えられています。
重症になると「うつ病」になります。

実は、先ほどの2種類のホルモンは血糖値を上昇させる作用も持っています。
糖は最も重要なエネルギー源ですから当然のことと言えるでしょう。
ですから、年度初めの今のように転職・転勤や引っ越しなどの大きな環境変化があった際には、血糖コントロールが悪化するケースが多いのです。
運動不足になりやすい梅雨や暑い夏場を迎える前に血糖コントロールが悪化すると、なかなか改善することが難しくなります。

解決策は「無理をせず、意識して休息をとること」につきます。
燃え尽きる前のこの時期から始めることが大事ですが、現実には年度初めの業務に忙殺されてしまう懸念があります。
できるだけ効率よく、少ない負担でできることを探したいものです。

一つの具体例として糖尿病臨床研究センターの取り組みをお示しいたします。

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机の上に机があるのがおわかりでしょうか。
これは立った状態でデスクワークをするためのスタンディングデスクというものです。

恐ろしいことに、長時間じっと座ったままの姿勢でいると血糖コントロールが悪化するばかりでなく、なんと入院や死亡の危険性まで上がるのです。
また、転倒骨折や関節障害さらには認知機能低下などの直接的な寝たきりの原因にもなります。
ですから、デスクワークを行う際には、30分毎に軽い歩行や運動をすることで糖尿病になる可能性が低くなり、糖尿病の方の血糖コントロールも改善すると推奨されています。

しかし、それも集中していたら忘れそうだし仕事も中断されるしということで、いっそのこと立ったまま仕事したらいいじゃないかという“スタンディングワーク”を推進する動きが出てきました。
スタンディングワークは欧州を中心に普及してきましたが、特にGoogleやFacebookなどの先進的なIT企業では早くから取り入れられているそうです。ずっとコンピューターと向かい合って座っていたからでしょうね。

仕事の効率もよくなりますので、無駄な残業を減らして休息時間をしっかりと取るのに有効な方法です。
新しい生活の始まりを機に、なるべく椅子に座らない生活をめざしてみるのも良いのではないでしょうか。

【参考文献】

Colberg, S. R. et al. Physical Activity/Exercise and Diabetes: A Position Statement of the American Diabetes Association. Diabetes Care 39, 2065–2079 (2016). PubMed

Rockette-Wagner, B. et al. The impact of lifestyle intervention on sedentary time in individuals at high risk of diabetes. Diabetologia 58, 1198–202 (2015). PubMed

Bakrania, K. et al. Associations Between Sedentary Behaviors and Cognitive Function: Cross-Sectional and Prospective Findings From the UK Biobank. Am. J. Epidemiol. 187, 441–454 (2018). PubMed

Ekegren, C. L. et al. Physical Activity and Sedentary Behavior Subsequent to Serious Orthopedic Injury: A Systematic Review. Arch. Phys. Med. Rehabil. 99, 164–177.e6 (2018). PubMed

Song, J. et al. Sedentary Behavior as a Risk Factor for Physical Frailty Independent of Moderate Activity: Results From the Osteoarthritis Initiative. Am. J. Public Health 105, 1439–45 (2015). PubMed

1型糖尿病「高齢化社会にどう生きる?」

センター長メッセージ
2018年03月01日

日中は寒さもやわらぎ、春らしさを感じられる季節になってまいりました。
庭先のチューリップもようやく芽吹き、陽気をたっぷりと吸い込んで開花の準備をしているようです。

以前、糖尿病患者数が増加していると申し上げましたが、同時に高齢化も進んでおります。
最近よく「2025年問題」という言葉を耳にしますね。
団塊の世代が後期高齢者になり、超高齢化社会を迎えることで生じる介護・医療をふくむ社会全体の問題のことです。

当クリニックでも下図に示しますとおり、2型糖尿病だけでなく1型糖尿病の高齢化も進んでいます。

スライド6

 

1型糖尿病の治療は進歩し、合併症による死亡は大きく減少いたしました。
たいへん喜ばしいことですが、高齢化対策を急がなければならないようです。
当クリニックの2025年の高齢化率を予測してみました。
スライド7

ご覧のとおり、あと8年で現在の2倍に相当する17.5%の方が65歳以上になるようです。

対策と言っても何か特殊なことが必要になるわけではありません。
今でも糖尿病療養指導として皆様とともに行っていることを、より体系的に漏れなく、そして分かりやすく簡潔にお伝えしなければならない、ということです。

米国糖尿病学会の機関紙の一つである「Diabetes Spectrum」誌は、専門の医療者向けに治療を個別化するための戦略を策定するだけでなく、糖尿病自己管理をしている患者さんのための教育を支援する役割があります。
2014年にすでに“高齢1型糖尿病患者のマネジメント”という総説が掲載されていました。とても具体的で網羅された内容でしたので和訳して以下に掲載いたします。長くて恐縮なのですが、一度お目通しいただければ納得いただけるものかと思います。
医療者の方だけでなく、ご高齢の1型糖尿病患者さんを介護されている方もしくは老後が不安な1型糖尿病患者さんにぜひ読んでいただければ幸いです。

スライド1 スライド2 スライド3 スライド4

※画像の2次利用は構いませんが元文献の引用は必要です。
Dhaliwal, R. & Weinstock, R. S. Management of Type 1 Diabetes in Older Adults. Diabetes Spectr. 27, 9–20 (2014).

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